母親

今日もいつもの通りのようです。
天気はときたま夏空になります。太陽の光が眩しいくらいです。空にはまだ雨雲がかかっています。その隙間から夏空が見えます。今日も又、蒸し暑い日です。


久しぶりに机の中を整理しました。手紙などが雑然と入っています。懐かしい友人からの手紙も入っています。必要のない手紙も入っています。
ハガキがあります。母親からの手紙です。「前略 その後おかわりありませんか」。母親の手紙の常套語です。子供を何時までも心配していることばです。ところどころ読めない漢字があります。そして、最後には「遊びに来てください」と書かれています。これもいつものことばです。差出日付は平成15年5月13日。母親88歳、米寿の歳です。


母親との思い出はたくさんあります。忘れられない思い出はたくさんあります。でも、母親については何も知らなかった。母親がどんな女性だったのか何も知らなかった。映画が大好きだったということは知らなかった。家族を残し一人でよく映画を観に行ったことも知らなかった。
僕が学校を卒業して東京に出てきたとき、母親の歳は40代半ば。そんな母親を知らなかった。母親の傍を離れて40数年。その間も母親がどんな女性だったか知らなかった。
母はハガキをくれた翌年、この世を旅立ちました。家族が集まった時に母親は映画が好きだったと知りました。母親がどんな女性だったのか、ほんの少し分ったような気がします。


「前略 その後おかわりありませんか」。母親としてのことばです。子供が大人になっても心配していることばです。父親が先にこの世を旅立って22年。一人で黙々と行き続けた一女性です。そして母親です。
「遊びに来てください」ハガキの最後に書かれています。「母さんのいないところに遊びに行っても面白くはないよ。でも今年は3回忌。お墓に会いにいくね」。