●おーい、雲くん。今日は実にのんびりと浮かんでいるじゃないか。これからどこまで行くんだい。ここは寒いけど雲くんのところは暖かそうだね。太陽の光にきらきらと輝いているじゃないか。




















●おーい、雲くん。そこから大きな病院が見えるかい。
僕はね。これからそこの病院に入院するんだよ。僕の担当医師は一週間から十日程度入院が必要だと言うんだけど、もっと短くならないかと思っているんだ。
この病院にはこれで5回目の入院になるけど、今では病院の様子も分かってきたし、治療の方法も大体分かってきたので、入院中の過ごし方の要領を覚えたんだ。
意外と退屈な時間が多いんだよね。寝てばっかりいるんだ。
家にいたら金魚に餌をやったり、メダカに餌をやったり、公園を歩いたり、本屋に行ったり、スーパーに買い物に行ったり、時たま、回転寿司を食べたりで結構忙しいんだ。
入院するとね、点滴が主なんだけど、点滴を受けている間ベッドの上でじっとしているか、点滴をしながら庭を散歩するか、病院内にあるコンビニで時間をつぶすか、ごくごく行動が限られちゃうんだ。読書すると眠くなるし。
雲くんは良いなぁ。その日の風まかせでどこにでも飛んで行けるんだから。
でも、風くんに協力してもらわないと自分の行きたいところに行けないんだよね。
思うようにならないもんだね。




















●おーい、雲くん。そこから僕の担当医師が見えるかい。
先生の名前は×××さんと言うんだ。そして、今の病気が治るかどうか聞いてもらいたいんだ。本当のことをね。
僕はね。自分は今の病気は治るんだという信念でこの病気と闘っているんだけど、吐き気などの副作用がでている時は、どうも弱気になってしまうんだ。
元の体に戻ることは無理だと思うけど、先生がもう大丈夫と言われた時点から新しく出発しようと考えているんだ。
だから知りたいんだ。治るかどうかを。治るんだったら遅くなっても構わないけど。
ごめんね。こんなことを雲くんにお願いして。
今の冬の時期、こんなにふんわりとした雲くんに会うのは珍しいんだ。
冬の時期は雲ひとつない快晴か、黒い雲に覆われるか、どちらかなんだ。




●おーい、雲くん。そこから遺体を安置しておく霊安室がみえるでしょう。
そこの病院は見晴らしの良い最上階に霊安室があるんだ。大体、病院の霊安室はほかの患者の目に触れない地下だとか、奥まったところにあるもんだけど、この病院は違っているんだ。
「最上階が天国に一番近いところ」。素晴らしい病院だね。
最後までお世話になりたい病院だけど、でも、もうしばらく待ってくれないかなぁ。
まだ、やることがたくさんあるんだ。
海外旅行をしたいし、日本のあちこちの温泉での〜んびり過ごしてみたい。金魚に餌をやらなくちゃならないし、宝くじに一度も当たったことがないのでぜひ3億円をあててみたい。新しいOSのパソコンが欲しいので家内に内緒で年金からコツコツ貯めているしでやることがたくさんあるんだ。
だから、言ってほしいんだ。
「やることがたくさんあるから、そこにはまだ行かないよ。いずれお世話になるかも知れないけど、その時は声をかけます」って。


夏の時期を思い出させる雲くんを見て、つい、我がままを言ってしまったけど許してください。
ゆったりと大空で遊んでください。
[鴨川海岸・入院時]