上池物語

今日の天気 晴れ


久し振りの晴天で、さわやかです。


いつも歩いている公園。大きな池があります。「上池」と言います。
この上池の水がどんどん減っていきます。今までにないことです。
橋の上からカメに餌を与えたいたのですが、それができなくなりました。
水が引いてしまって、橋の下は土だけになってしまいました。
カメたちはどうなってしまうんだろう。そんなことから又、長くなりますがお話を作りました。



[通常の上池(20年8月)]

















[水がなくなった上池(20年9月・橋の上から撮影)]


















ある日のことです。
「日本国竜宮城千葉県袖ケ浦公園上池支部」の亀池支部長に報告書が提出されました。
表題は「上池の水位がもの凄く早く下がっている件」と誰が見ても分かりやすいものでした。
提出者は「水位管理者の亀田さん」です。
亀田さんの仕事は、毎朝、上池の水位を物差しで測り、その結果を日誌に記入し、亀池支部長さんに報告することです。
しかし、水位は毎日同じで、亀田さんは日誌を書く張り合いがなくなってきました。また、亀池支部長さんも日誌に毎日同じ水位が記入されているのでコメントを書く気力もなくなってきており、ただハンコをおすだけのことから今月から日誌を廃止し、水位が「なんか、変だなぁ」と感じた時だけ報告させることにしました。


上池には二つの小川から水が流れてきており、上池の水位がある高さになりますと水門からあふれるようになっています。
夏の時期は、日照りによる蒸発で若干下がりますが、そのほかの時期はいつも安定しています。
日誌は廃止されましたが、水位は毎朝調べています。
ある朝、水位が前日より1センチメートル下がりました。夏でもない時期に水位が下がったことに「なんか、変だなぁ」と感じたのですが黙っていました。
翌朝になりますと更に前日より1センチメートル下がりました。
やっぱり「なんか、変だなぁ」と思い、亀池支部長さんに黙っていられなくなり報告書を提出したのです。



[水位管理者の亀田さん(木片の上で心配そうに水位を見ているところです)]


















亀池支部長さんは暫く様子を見ることにしました。
10日経っても水位は下がるばかりで、とうとう池の底地が見えるところも出てきました。
これから冬眠準備をしなければならない時期に、水がなくなっては大変なことになります。
そこで、亀池支部長さんは、全員が携帯している電話に「緊急連絡」をすることにしました。
この携帯電話は、電源が入っていなくても緊急連絡の際は自動的に電源が入り、携帯電話を耳に当てなくてもスピーカーから声が流れ聞くことができるすぐれものです。
メールで連絡する方法もありましたが、滅多にメールを開かないカメもいましたので緊急連絡にはむきません。


♪ピンポンパーン♪チャイムの音が携帯電話から流れてきました。
チャイムの音が流れてきたときは緊急連絡で、全員がかしこまって拝聴する決まりになっています。
「モス、モス」亀池支部長さんの声です。
亀池支部長さんは「サ行」の発音が苦手です。
そのあと「カメよ、カメさんよ」と続きました。
正しい発音で言いますと「もし、もしカメよ、カメさんよ」となり、どこかで聞いたことがあるような文句ですが、これが「日本国竜宮城千葉県袖ケ浦公園上池支部」所属員の合言葉になっているのです。これを最初に言わないと他の国からやってきた工作員からの電話だということになり、すぐ携帯電話の電源を切ることになっています。


亀池支部長さんのお話が続きます。
「皆シャンも気がついていると思いまシが、上池のミジュが毎日のように減っていまシュ。これは今までになかったことで一大事です。
仲間をこまらスてやろうと池の真ん中に穴を掘ってそこからミジュを流しているとか、カルスームをたくさん含んだミジュ「名水 上池の水」と銘打って上池のミジュ売っている人間がいるとか、根拠のない噂が流れていまシュ。原因はゲンジャイに至っても分かりまシェ〜ん。
これから冬眠にはいるズンビをしているときに大変困ったことでシュ。ことスの冬眠シる場所は出来る限り池の真ん中でシるようにスてくだシャい。
池のミジュがたくシャんあったときは、キスベの近くまで行って人間から餌などを貰って冬眠するための体力をつけていまスたが、ことスはズ分たちでえシャをさがスて体力を付けてくだシャい」。
亀池支部長さんの「サ行」の言葉は何かムリして話しているようにも聞こえましたが、みんな黙って聞いていまスた。


この日からまた日誌が復活し「水位管理者の亀田さん」は忙しくなりました。
とうとう水位が「零」になってしまいました。
それでも、池の真ん中にはまだ水が残っています。もうすぐ竜宮城の屋根が見えるというところで水の流れが止まりました。
毎年、竜宮城はカメの冬眠に合わせて休館するのですが、今年は休館の準備をする暇もなく水対策に追われて毎日結論の出ない会議に大童の状況が続いていました。



[残り少なくなった水。もうちょっとで竜宮城の屋根がみえたのに]



















遠くから「ガリガリ、キーン。キンコンカーン」という音が響いてきました。その音は水門のあたりから聞こえてきました。
何ごとが起きたのかと水位管理者の亀田さんは驚きました。亀池支部長さんの指示により、亀田さんはさっそくその音の出ている水門まで行くことになりました。
水があれば水門まで泳いで5分もかかりません。今は水がなくなっていますので歩いていくことになります。歩くことは実に苦手です。
「もしもし かめよ かめさんよ せかいのうちに おまえほど あゆみの のろいものはない どうして そんなに のろいのか」と世界的に有名な童謡がありますので、カメの歩きの遅いことは子供でも知っています。
1時間かかってやっと水門につきました。
水門で人間が工事をしていました。水門の近くに掲示板があり、その掲示板には
「工事のお知らせ  この度、水門老朽化のため改修工事を実施することになりました。そのため現在、池の水を排水しています。工事期間は10月31日まで」と書いてありました。
水位管理者の亀田さんは早速この掲示板をカメラ付き携帯電話で写真にとり、「写メール」で亀池支部長さんに送信しました。

[亀田さんが送信した写メールの写真]



















♪ピンポンパーン♪チャイムの音が携帯電話から流れてきました。
引き続き「モス、モスカメよ。カメさんよ」と合言葉がスピーカーから流れてきました。
亀池支部長さんからの緊急連絡です。
上池の水位が急に下がった原因は、水門工事をしていることによるものだと説明があり、今年の冬眠は、工事が終わる10月31日以降するようにとの注意もありました。


カルガモが飛来してきました。
「アレッ。間違っちゃったかなぁ。いつもの「上池」だと思ったんだけど」。
水のない「上池」を見て、カルガモは勘違いをしたのです。


今日、水門の状況を見てきました。予定より早く工事が終了したようで、水門は閉じられ排水はありませんでした。
少しずつ、水位が上がってきています。
満杯になるにはもう少し時間がかかりますが、カメたちは喜んでいることでしょう。



[今日の上池の状況(20.10.2・水が少しずつ増えています)]