「オトウサン」と家内が階下から大きな声で僕を呼びました。
我が家は夫婦二人の生活で、それぞれが自由な時間を過ごしているときです。
「ヒャ、宝くじでも当たったか」と思い、電気ストーブを蹴散らし、部屋のドアに体当たりして階下に降りて行きました。
そうしましたら「オトウサン、今朝、金魚に餌をやったの」と夢を破るようなことを家内が言いました。
「やったよ」と足と体の痛さをこらえ、現実の話題にガッカリしてやっと答えました。
「さっき、金魚が私の顔をじっと見つめていて餌が欲しいと「青い顔」をして言っているのよ」。
「ナニ、金魚が「青い顔」して餌を催促しているってか」と、つい深く考えもしないでオウム返しに言いました。
1秒経ってから「ハテ、金魚が青くなることはあるんだろうか」と自問し、そんなことは絶対にあり得ないことに気がついて、癪にさわったので家内に言ってやりました。
「金魚はこの世に生まれた時から体全体が赤い皮膚をしているんだから、顔だけが青くなる筈はない。年を取ってくると目も悪くなっちゃうんだね」と。
家内はその言葉にカチンと来たらしく「オトウサンは、自分でみていないから分からないでしょうが確かに青い顔をしていました。オトウサンこそ年を取ってくると運動神経が鈍くなってきているのよ」と自説を曲げず、さっき「宝くじが当たった」と喜んで、嬉しさのあまり電気ストーブを蹴散らし、部屋のドアに体当たりして、年甲斐もなく階段を駆け降りた時、階段を踏み外して転げ落ちてきたことを言ったのです。
僕の一番嫌いな「運動神経が鈍い」という言葉に「カチン」と来て、それからも悶着は延々と続きました。


実はこの話題の金魚。
あるお祭りの「金魚すくい」で家内が二匹取ってきたもので、お祭りの思い出の金魚として大切に育てているのです。それから餌を与えるのが僕の任務になってしまいました。毎日、餌をせっせとやっているせいか、金魚の大きさは取ってきたときより二倍の大きさに成長しています。
このまま、餌をせっせとやっていると鯛と同じくらいになることが考えられます。
家内には内緒ですが、
「鯛」と同じくらい大きくなったら・・・。焼き魚にして・・・。お醤油を用意・・・。・・・とても美味しそう。