公園でまたカメにあいました。道路上でジッとしています。池からここまで百メートル以上
離れているのですが、どうしてここまで来たのか謎です。2年前にもこの近くでカメを見た
ことがあります。その時はカメが産卵した直後で、土中に真っ白な卵を見ることが出来まし
た。その時僕は、産卵した穴に土をかぶせ、カメを池の近くまで持って行き、そこで別れま
した。
残念なことに卵は孵化したかどうか確認できませんでした。
このカメも産卵にここまできたのでしょうか。2年前のカメだったら僕のことをおぼえている
かも知れません。



カメの事情は分からないのですが、このままでは道路上で干上がってしまいますので、
カメを池の近くまで持って行くことにしました。
カメを持ち上げようとしたら、そそくさと逃げ出しました。行く手には細い木々が密集し
甲羅が挟まり前に進むことができませんでした。カメを藪の中から持ち上げて、
やっとのおもいで池の近くまで持って行きました。




カメが言いました。
「ありがとうございました。このご親切は忘れません。ところで竜宮城発行の
ポイントカードをお持ちですか」
「いや、まだ持っていません」と僕は言いました。
「お作りしましょうか。今月、竜宮城のリニューアルオープン強化月間の一環で
ポイントカードを採用することになりました。このポイントカードは、二種類ありまして
カメに良いことをしてくれた方用に「ゴールドポイントカード」、その他竜宮城をご利用さ
れる方用に「ポイントカード」が発行されます。
ゴールドポイントカードは、「カメを池の近くまで連れて行ってくれた」などカメに良いこ
とをしたくれとき、1ポイントが付きます。
10ポイント貯まりますと、「竜宮城への無料ご招待券」が送られてきて、竜宮城までの新幹
線往復料金は無料(※)。お酒は飲み放題。ご馳走はバイキング形式で2時間まで無料。その
うえきれいな乙姫様や鯛・ヒラメさんから接待を受けることが出来ます。もちろん、宿泊費
も無料。そして、さらに、さらにカラオケも個室で2時間歌い放題で無料です。
竜宮城のリニューアルオープン強化月間中の特別サービス。いかがですか」


僕はお酒は弱いし、それに年を取ったせいか小食でバイキングは苦手。カラオケは、現在、
声帯を痛め高音がでないので音痴の状態で、ゴールドポイントカードの特別サービスをほ
とんど受けることが出来ないのでお断りしようと思ったのですが、きれいな乙姫さまに逢
うことが出来るという言葉でカードを作ることに決めました。


僕は勇気を持ってカメに聞いてみました。
「あの〜。2年前も。そしてその前もカメさんを助けたことがあるのですが、過去の分もポ
イントとして頂戴できないでしょうか」
カメは言いました。
「2年前も含め、何回ぐらいありますか」
「はい、2年前を含め6回ほどあります」と僕は2年前を強調しました。
しかし、カメには特別の反応を示さなかったので、2年前のカメとは違っているようです。
「本来は、カードを発行した時からポイントをつくのですが、竜宮城のリニューアルオープ
ン強化月間中のことでもあり、今回分を含めて7ポイントを差し上げます。あなたは端正
な顔だちで、ウソなど言える人ではありません。顔を見ればその人の性格が分かります。6
回という回数を信じましょう」。
ゴールドポイントカードにカメの形をしたスタンプが7個押されました。
僕はカメに褒めて貰った嬉しさと、7個も押されたカメの形をしたスタンプのゴールドポイ
ントカードをもらった二重の喜びに有頂天になっていました。
その時の僕の顔をどんな顔をしていたんだろう。


自分の顔は、写真や鏡で間接的に見ることができるのですが、直接見たことがありません。
その時の顔は、多分凛々しい顔をしていたのでしょうね。直接見たかったなぁ。
それと自分の背中も直接見ることはできません。子供はオヤジの背中をみて育つ、なんて言
われていますが、子供たちは僕のどんな背中をみて育ったんだろう。


あと3回で乙姫様と逢うことが出来る。と思ったらますます公園を歩くのが楽しみになっ
てきました。


※ 乙姫様がいる竜宮城本部は海の中で、池にある支部から本部までの交通機関は、人が寝
静まった真夜中に、川の中を通る電車の各駅停車を利用していました。この春、人間界
の「北陸新幹線」が東京・金沢間を開業したと同時に、竜宮城でも支部から本部までの
水中新幹線を開業しました。


●乙姫様がどこかの携帯電話会社のテレビコマーシャルに出ていますが、そのコマーシ
ャルの内容と似ているところがありますが、本件とは全く関係がありません。


僕は公園でカメを見つけ、池に放したことからカメとのちょっとした物語を考え一人ブツ
ブツ言いながら歩いているのを猫がジッと見ていました。