これは昨年のお話です。
ある公園にカメとカルガモが住んでいました。














カメとカルガモは大の仲良しです。
カメは春に誕生したまだ幼いカメです。
カルガモも同じ時期に生れました。
カメの名前はカメ太郎。
カルガモの名前は二番目に生まれたのでカモ次郎と言います。














カメ太郎とカモ次郎が仲良しになったきっかけは、ちょっとした出来事からです。
カメ太郎が生まれて初めて公園の池の水の中に潜ったときです。
水面に黄色いものが動いていました。きっと食べ物に違いないと思い、それに飛び付きました。
それはカモ次郎の足だったのです。カモ次郎も生まれてすぐお母さんガモと沢山の兄弟ガモと池を泳いでいたのです。カモ次郎はお母さんガモにおいていかれては大変だと思い、必死になって足を動かしました。
その時、足に痛みを感じました。足が動かなくなりおぼれそうになりました。
カモ次郎は「お母さん、助けて」と叫びました。
お母さんガモはびっくりして助けに来ました。お母さんガモが潜ってみましたらカモ次郎の足に小さなカメが噛みついていました。


お母さんガモはカモ次郎と子カメを岸に上げて、子カメからカモ次郎の足にかみついた理由を聞きました。
「ごめんなさい。食べ物だと思いました」と子カメは素直に謝りました。
そして「僕の名前はカメ太郎と言います。小さいカモさんとお友だちになってください」とお母さんガモに元気よく言いました。
お母さんガモは子カメの名前がカメ太郎と言うのにちょっとびっくりしました。自分の子供の名前のカモ次郎と同じような名前だったからです。
でも、カメ太郎という名前はお母さんカメから付けてもらっていないことをお母さんガモは知っていました。カメは生まれた時から独りぼっちでお母さんカメを知らないのです。二度とお母さんカメと会うこともないのです。子カメの名前は仲間がつけてくれたのです。
そんなカメ太郎を可哀そうに思いました。
お母さんガモは許してくれました。
子ガモも元気よく答えました。
「はじめまして。僕の名前は二番目に生まれたのでカモ次郎と言います。これから仲良く遊びましょう」。


カメ太郎は喜びました。もう独りぼっちではないのです。
それから毎日、池で水のかけっこや泳ぎの競争などして遊びました。














カメ太郎は池の底に生えている水草を取ってきてカモ次郎にあげました。
カモ次郎は小魚を捕まえてカメ太郎にあげました。
カメ太郎とカモ次郎は仲良く、いつも一緒に遊びました。


何日もたちました。カメ太郎とカモ次郎は大きくなりました。
カモ次郎は空を飛べるようになりました。カメ太郎は泳ぎが上手になりました。














そんなある日
カモ次郎はカメ太郎に言いました。
「今度生まれてくるとしたら、何になりたい」。
カメ太郎は答えました。
「僕はカモ次郎さんのような鳥になって、いろんなところに飛んでいってみたいなぁ」。
そしてカメ太郎はカモ次郎に言いました。
「カモ次郎さんも今度生まれてくるとしたら、何になりたい」。
カモ次郎は答えました。
「僕はカメ太郎さんのようにカメになって水の中をすいすい泳ぎたいなぁ。そして竜宮城にも行ってみたい」。


カモ次郎はカメ太郎の夢を叶えてやろうと思い、お母さんガモに相談しました。
お母さんガモは仲間たちのカルガモに相談しました。
「いいことがあるよ」と仲間が言いました。
何日か経ったある日、仲間のカルガモが大きな籠と丈夫な紐を持ってお母さんガモのところに来ました。
「この籠にカメ太郎さんを乗せて、空を飛びましょう」と仲間が言いました。
籠にカメ太郎を乗せ、その籠を4本の紐でぶら下げ、カモ次郎と仲間3羽で紐をくわえて飛ぼうというものでした。


空を飛ぶ日がやってきました。
カメ太郎は空を飛ぶ前の夜は興奮して一睡もできませんでした。
カモ次郎はカメ太郎に言いました。
「ひとつだけ約束して欲しいんだけど。空を飛んでいるときは絶対に話かけないようしてもらいたいんだ。この約束を破ったらカメ太郎さんは死んでしまうよ」。
恐ろしい言葉にカメ太郎は驚きましたが、その理由はすぐ分かりました。
カメ太郎が話かけて飛んでいるカモ次郎の仲間が返事をしようものなら、くわえている紐を落としてしまい、籠もろともカメ太郎は地上に落ちてしまうからです。


空から見た池は小さく見えました。池の周りを歩いている人間も小さく見えました。
いつも意地悪しているガチョウたちは物すごく小さく見えました。
気持ちの良い風が吹いています。カメ太郎はすっかり鳥になった気分になり自分がカメであることを忘れていました。
カラスが飛んできてカメ太郎に言いました。
「空を飛んでいる気分はいかがですか」
カメ太郎は言いました。
「すごく気分がいい。カラスさんと同じ気持ちです」と答えました。
空中散歩が終わり地上に降りた時、カメ太郎はカモ次郎とその仲間たちにお礼を言いました。
「今日はありがとうございました。夢が叶ってこんなうれしいことはありません。良い友達に恵まれて幸せです」。


カメ太郎は思いました。
今度はカモ次郎の夢を叶えてやろうと思いました。
公園の池の中にある竜宮城の支部長さんに相談しました。
竜宮城の本部は日本の海の中にあるのですが、カメ太郎はその場所を知りません。
竜宮城で一番偉い人は乙姫様だと聞いているだけです。
支部長さんは「それは良いことです。すぐ招待してあげなさい。友だちは大切にしなくてはなりません」と言いました。
このことをカメ太郎はカモ次郎に言いました。
カモ次郎はすごく喜び「こんなうれしいことはないなぁ。どうもありがとう」と言いました。


カメ太郎はさっそく準備を始めました。
カメ太郎の甲羅に籠をくくりつけました。籠はカメ太郎が空中散歩に使ったものです。
それから薬を一錠竜宮城から買ってきました。
この薬を飲むと、水の中でも呼吸することができます。有効期間は1年間です。

カモ次郎は竜宮城に招待される前の夜は興奮して一睡もできませんでした。
でも、招待される当日の朝。ウトウトしてしまい、お母さんガモに起こされました。
「お母さん、おはよう」と元気よく挨拶をしました。毎朝の挨拶をかかしたことがありません。
朝食を食べた後「それでは行ってきます」と元気よくお母さんガモと兄弟が見守るなか、カメ太郎のところに飛んで行きました。


カメ太郎は甲羅にくくりつけた籠にカモ次郎を乗せ、水中深く潜っていきました。
カモ次郎はカメ太郎からもらった薬を飲んでいますので、水の中に何時間いても平気です。
カメ太郎は竜宮城に行く途中、いろいろなところを案内しました。
カメ太郎の何倍もある大きな鯉さんを紹介してくれました。
鯉さんは「よく来たね。ゆっくり遊んで行きなさい」と口ヒゲをぴくっと動かして言いました。大きな口にカモ次郎はびっくりしました。
ナマズさんやフナさんも紹介してくれました。


竜宮城につきました。
カメ太郎のたくさんの仲間が、旗を振ってカモ次郎を迎えてくれました。
その一番前にきれいなお姉さんがいました。乙姫様です。
乙姫様はカモ次郎を招待するために、この池の竜宮城の支部にやってきていたのです。
乙姫様はカモ次郎に言いました。
「いつもカメ太郎と仲良く遊んでもらってありがとう。今日はゆっくり遊んで行ってください」。


カメ太郎は竜宮城のいろんなところを案内しました。
そして、大きな広場にカモ次郎を連れて行きました。
大きな広場にはカモ次郎の大好きなご馳走がたくさん並べてありました。
カモ次郎はお腹がきつくなるほどたくさん食べました。もう、夢心地です。
食事が終ったあと、今度はお遊戯会が始まりました。
鯉さんの子供たちやフナさんの子供たち、そしてカメさんの子供たちが一緒になってお遊戯をしました。カモ次郎も一緒になってお遊戯をしました。
竜宮城での時間はアッという間に過ぎて行きました。
カモ次郎は乙姫様にお別れの挨拶をしました。
「今日はどうもありがとうございました。とっても楽しかったです」。
乙姫様はカモ次郎に言いました。
「これからもカメ太郎と仲良く遊んでくださいね」。
そして、乙姫様はご馳走が一杯入っている玉手箱をカモ次郎に渡しました。
「これはご家族へのお土産です。みんなで仲良く食べてくださいね」と言いました。
カモ次郎はカメ太郎に言いました。
「今日は本当にありがとう。これからも仲良く遊ぼうね」。


カモ次郎はお母さんガモと兄弟に今日の出来事を全部お話をしました。
お母さんガモは言いました。
「それは良かったね。竜宮城に行くこともできたし、鯉さんやフナさんとお友達になれて」。


冷たい風が吹く季節になりました。
お母さんガモはカモ次郎とカメ太郎を呼び寄せました。
そして、言いました。
「これから寒い時期になります。これからカメ太郎さんは池の土の中で眠って寒い冬を過ごすことになります。
そして、カメ太郎さんは暖かい春に目を覚まします。
でも、カメ太郎さんが目を覚ました春には、カモ次郎は遠い北の国に旅立ってこの池にはいません。
私たちカルガモは、暖かくなる春の季節になると北の国に行き、寒くなる秋にはまたこの池に戻ってくる性質があるのです。この池に一年中いる仲間がいますが、それは家族を作るためです。今年、わたくしも家族を作るためにこの池にいたのです。
カモ次郎が北の国から戻ってきた時は、カメ太郎さんは土の中で眠っています。
ですからこうして仲良く遊べるのは今年だけです」と悲しそうに言いました。
カモ次郎とカメ太郎は初めてカルガモとカメとの生活の違いを知りました。


寒い、寒い冬がやってきました。
カメ太郎はカモ次郎と仲良く遊んだ夢を見ていました。
カモ次郎はカメ太郎がいなくなった池を見つめながらカメ太郎と一緒に遊んだころを思いだしていました。
そして、暖かくなったら北に飛んでいけるように、たくさん食べて体力をつける努力をしていました。













冬の時期には珍しく、風もなく水面は波ひとつなく池は静まりかえっていました。


オジイチャンのお話が終ったとき、孫はオジイチャンの傍で眠っていました。
メデタシ、メデタシ。
終わり