午前6時に花火が打ち上げられました。小学一年生のしゅんすけ君の初めての運動会です。
昨夜はこうふんしてなかなか眠れませんでした。
けさはお母さんに起こされなくても自分でおきました。いつもより早い起床です。お母さんはお昼の弁当の準備をしています。
お父さんはというと、小学校に行って場所取りです。今日のお昼は最高のご馳走です。
お母さんはしゅんすけ君の大好きな卵焼き、鳥のから揚げを作りました。チラシ寿司も用意しました。ジュースも用意しました。
お父さんには稲荷寿司を5個とビールをニ缶用意しました。そしておつまみのハムを入れることも忘れませんでした。
午前9時。運動会開始の花火が打ち上げられました。雲一つない晴天です。全校生徒の入場です。
お父さんとお母さんはしゅんすけ君を探しました。
いた、いた。右から参列目の中ごろにいました。お父さんはデジタルカメラでしゅんすけ君の写真を撮りました。望遠を最大にして撮りました。
 お父さんはしゅんすけ君がこんなに緊張して、まじめな顔をしているのを見たのは初めてです。しゅんすけ君が頼もしく見えました。
いつもしゅんすけ君はお母さんと喧嘩しているようだけど許してやろうと思いました。


一年生の遊戯が始まりました。又、お父さんとお母さんはしゅんすけ君を探しました。
すぐ、見つかりました。女の子と手をつないでいます。恥ずかしいそうにしています。こんな恥ずかしいそうな姿を見たのも初めてです。
間違ったところが沢山あったのですが、遊戯を最後までやり通したしゅんすけ君をみてお父さんとお母さんの顔から涙が流れていました。
楽しいお昼の時間がやってきました。三人そろってお弁当を食べました。お母さんが朝早く作ってくれた弁当です。
「すごく美味しいね」としゅんすけ君はいいました。お母さんはうれしくなりました。お父さんはビールを飲んで少し顔が赤くなっています。
お父さんはしゅんすけ君とお母さんが仲良く話しをしているのをジツと聞いていました。
50メートル走で、しゅんすけ君は一等賞でした。お父さんは「今日はウンと褒めてやろう」と思いました。
そして、しゅんすけ君が学校から帰ってきて、今日の運動会の様子を話し始めたらじっくり聞いてやろうと思いました。
お父さんはしゅんすけ君に「楽しい思い出」を作ってくれたことに感謝しました。


この小学校の近くに古くなった一戸建ての建物があります。しゅんすけ君が住んでいる家です。そんなに広くはありません。
この家はしゅんすけ君のおじいちゃんが買ったものです。
おじいちゃんとおばあちゃんは結婚してしばらくアパートに住んでいました。おじいちゃんは一大決心して一戸建てを買うことにしたのです。
お金は銀行から借りました。庭もそんなに広くはありません。でも、おじいちゃんとおばあちゃんは満足でした。
おばあちゃんもおじいちゃんと一緒になって働きました。
その家の玄関には、おじいちゃんとおばあちゃんのくつがいつもきちんと並べてありました。おじいちゃんのくつはいつも磨かれて光っていました。
 5年経ちました。おじいちゃんとおばあちゃんの横に男の子のくつがありました。みんなで三足です。男の子のくつはしゅんすけ君のお父さんです。
 ウルトラマンのついたくつです。やっと授かった男の子です。おじいちゃんとおばあちゃんは大変喜びました。そして大事に大事に育てました。
そして、男の子は素直な子に育ちました。


何年も経ちました。玄関に置いてあったくつは三足から二足、二足から一足になっていました。最初になくなったのはおじいちゃんのくつでした。
それからしばらくしておばあちゃんのくつがなくなりました。
それからまた何年も過ぎました。玄関に置いてある一足のくつの底はかなり減っていました。それにほこりまみれです。一人暮らしの玄関は広すぎました。
でも、それからしばらくして、女の人のくつが男の人のくつの横に並びました。しゅんすけ君のお母さんです。二足ともピカピカに光っています。
 一年後にはウルトラマンのついた可愛いくつが両親のくつの横に置いてありました。また、三足になったのです。その子の名前はしゅんすけ君と言いました
。しゅんすけ君は大事に育てられました。お母さんは我がままを許しませんでした。厳しく躾をました。こんなこともあって時々しゅんすけ君と
喧嘩することもありましたが、しゅんすけ君はいつも素直に謝りました。


しゅんすけ君は野球が大好きです。
プロ野球千葉ロッテマリーンズのファンです。
近くの小学校で土曜日、日曜日に少年野球の練習が行われていました。
しゅんすけ君もみんなと一緒に練習をやりたいと思っていましたが、小学校に入る前は少年野球のチームに入ることは出来ませんでした。
そこでしゅんすけ君はみんなのやることのまねをしました。バットのふり方。ボールを壁にぶつけ、ボールの投げ方、受け方。全部みんなのまねをしました。
グローブとバットはお父さんに買ってもらいました。
くつはウルトラマンのついたくつで練習をしました。少しずつうまくなって行きましたが、他の野球少年からみるとまだまだ下手でした。
土曜日と日曜日には近くの小学校から元気な野球少年の声が聞こえてきました。
その声に誘われるようにバットとグローブを持って小学校に出かけました。
しばらくして少年野球チームの監督さんからチームの仲間と一緒に練習してみないかと誘われました。
ユニフォームは着ることは出来なかったのですが、みんなと一緒に練習することができるようになったのです。
でも、みんなと同じように練習することは出来ませんでした。みんなしゅんすけ君よりとし上です。みんなのグローブの整理。
スパイクの整理。バットの整理。ヘルメットの整理。そして玉拾い。そして応援。やることは沢山ありました。そのあい間にみんなに混じって練習をしました。
みんなと仲良くなり「しゅんすけ、しゅんすけ」と呼ばれるようになりました。
小学校に入学する1ヶ月前、お母さんは少年野球チームの監督さんに正式に入会手続をしました。
お母さんは監督さんからそのチームのユニフォームをもらってきました。しゅんすけ君の体には大きすぎるユニフォームです。
それでもしゅんすけ君はうれしくて、お父さんとお母さんに見せびらかしました。
しゅんすけ君は体より大きなユニフォームを着て練習に出かけ、その姿が可愛いと野球少年のお母さんたちの人気を集めました。
ユニフォームを着てもチームでは年齢は一番下で、やることは今までと全く同じです。みんなのグローブの整理。
スパイクの整理。バットの整理。ヘルメットの整理。そして玉拾い。そして応援。
一番年下でも走ることは年上の子より早く、自慢できることでした。


しゅんすけ君が小学一年生に入学した時、お父さんから運動ぐつを買ってもらいました。玄関に置いてある自分のくつのほかに
この運動ぐつも並べておきました。下駄箱にはまだくつが入る余裕があったのですが、しゅんすけ君のお気に入りのくつだから並らべておきました。
お父さんのくつとお母さんのくつ、そしてしゅんすけ君のくつとお気に入りの運動ぐつ。運動ぐつは野球の練習の時もはきました。


 運動会の日、しゅんすけ君は5時半に目が覚めました。今までなかったことです。いつもはお母さんかお父さんに起こされています。
お母さんもいつもより早く起きてお弁当の準備です。6時に花火がなりました。
しゅんすけ君は「今日は運動会だ」と思いました。
 お父さんから買って貰った運動ぐつで思い切り走れるのがうれしいのです。それにお父さんとお母さんが僕を見にきてくれる、
うれしくてうれしくてどうしようもありませんでした。
友だちが迎えに来ました。友だちは野球仲間のりょうま君です。りょうま君はしゅんすけ君より二つ年上です。
しゅんすけ君は運動ぐつの紐をきちんと結びりょうま君と仲良く学校に向かいました。


しゅんすけ君は4年生になりました。
将来の夢は「プロ野球選手」になることです。