[入院生活]
僕を診察している医師は二人です。主治医と担当医。
担当医は毎日、健康をチェックし診察を行います。そしてアドバイスもしてくれます。
看護師さんは1日24時間を4人が交代で担当していきます。交代の都度、挨拶に来ます。
朝、昼、晩に検温に来ます。
体温は。お通じは。血圧は。酸素量は。そして、どこか変わったところがありますか。と毎回同じように聞き、その場でパソコンに入力していきます。
すごい時代になったものですね。すぐパソコンに入力するのですから。
酸素量を測るとき、昔見た「ET」という映画を思い出しました。人差し指を赤く点灯した測定機の中に入れます。思わず「イーティ」と言ってしまいそうになります。


(若い看護師さん)
若い女性の看護師さん、いわゆる白衣の天使が血圧を測る際、僕の手首にそっと触り呼吸数を数えます。血圧値がグゥーンと高くなるのではないかと心配したのですが、なぜか通常より低い血圧値で、皮膚感覚が加齢とともに衰えてきたことを感じ、青春は二度と戻ってこないことを実感しました。



(冗談の分かる看護師さん)
少し経験を積んだ女性の看護師さんのお話。
抗がん剤を点滴した際、排尿量と排尿の回数を記録することになりました。
尿の量を測る器(コップ)のメモリは、最大500mlです。
初めは300mlとか400mlとか問題なく測ることもでき、記録表にその旨記録しておきました。
排尿量がどんどん増えてとうとう500mlを超え700mlになってしまいました。
その量の記録を見てベテラン看護師さんは言いました。
「男の人は2度に分けて測ることができるのですからいいですね。先をちょいとつまめば止められるのですから。女の人の場合は無理ですね」。
女性の場合500mlを超える場合どうするのかとベテラン看護師さんに聞きたかったのですが、この話はさらっと聞き流すのが良いと思いまして、ただ「ウンウン」と頷いておりました。


(暇で死にそう)
入院してから二日ほどは忙しい日々を過ごしましたが、その後はぱったりと暇になり、家では暇で、暇で死にそうでしたが、病院では暇で、暇で、さらに暇でさらに死にそうです。
朝、昼、夜の食事。それに朝、昼。夜の検温。そして放射線療法。それ以外は全くありません。後は寝るだけ。
入院は、肺がんを早く治すためなのに、入院して死んだら病院の面子にかかわりますから、なるべく病院に迷惑がかからないように毎日をなんとか過ごしています。
もし、うっかり死んだら
新聞には「ああ、無惨。前期高齢者、肺がん治療中、睡眠とりすぎて死亡」なんて掲載されたら笑われてしまいますね。


(治療による副作用「吐き気」)
化学療法。放射線療法により、毎日、吐き気を感じます。
それに味覚がなくなり、何を食べても味がありません。
食べ物がすっきり喉を通らなくなってしまいました。
大好きなすき焼きを思い出しても吐き気。いつも食べている納豆を思い出しては一層の吐き気。そして、朝、昼、晩に出てくる食事の匂いを嗅いだだけでも吐き気が襲ってくるのです。残すことが多くなってきました。
何を食べても味がなく、ご飯はおかゆにしてもらったのですが、このおかゆに塩をたっぷりかけないと食べられない状態です。
このご飯の匂いが一番きつくなりました。
毎回、吐き気止めの薬を食前、食後に服用しているのですが、吐き気は相変わらず続いています。
いつもなら食事の時間が待ち遠しかったのですが、今では食事は一日に一度で良いと思うようになりました。
家内が言いました。
「オトウサン。食べる時に食べないと病気に負けちゃいますよ。病気に勝つには食べることが一番です。「つわり」の時の吐き気はこんなもんじゃなくもっとひどいものよ。それでも赤ちゃんのため我慢して食べました」と訳の分からない比較論でなんとか食べるよう説得してきました。
僕は「つわり」の時の吐き気の経験(今後もないと思います)がないので何とも言えなかったのですが、僕は「ウン、ウン」とさも分かったような顔をして頷いておきました。


(治療による副作用「脱毛」)
抗がん剤の副作用で頭髪が抜けると聞いています。入院する時、丸坊主になってきました。
50年振りの坊主頭になりました。これがなかなか快適。シャワーを浴びても洗髪は簡単。朝起きた時の寝ぐせもなく、整髪する必要もありません。涼しい。など、大変便利です。今の時期、外出時は帽子を被ります。
抗がん剤を注射して2週間経過後の7月15日、頭髪が抜け始めました。
いよいよその時が来たようです。医師は「全部抜けてまた生えてきますから心配要りませんよ」と言っていましたが、ただ、おろおろするばかりです。
第五回目のショックです。

              
(治療による副作用「シャックリ」)
抗がん剤治療を受けた翌日、「シャックリ」が出て容易に止まらなくなりました。
止まってもすぐ出てきます。これも副作用の一つなのでしょうか。

[シャックリの止め方]
「シャックリ」の止め方を看護師さんが教えてくれました。
病院が推奨しているものではなく、個人的に経験をしたものを教えてくれました。看護師さんの名前を付けて「○○○式シャックリ瞬間停止びっくりしたなぁ方」と名付けました。
まず、コップに水を入れておきます。
そして立ったまま腰を直角以上にかがめ、その状態でコップの水を飲みます。
コップの飲み口は通常の姿勢で飲む時とは逆にしないと水がこぼれますから注意してください。三口ほどゴックン、ゴックン、ゴックンと飲みます。
また、鼻から水がでてこないようにこれまた注意が必要です。鼻から水が出てきた場合シャックリどころではなく死ぬ思いをします。


[胸部の痛みがなくなる]
放射線の治療を受けてから4日目にあたる7月6日。胸の痛みがなくなっていることに気がつきました。
今まで胸の痛みに悩まされたのが嘘のようです。体を横にしたり、斜めにしたり、逆立ちしても痛みは出ません。
ああ、これでゆっくり眠ることができます。
かすれた声は一向によくなる気配はありません。空気が音を出しているという感じで、喋ると本当に疲れますし、会話も長く続きません。数分話をしていると終わりの方は空気がすうすう抜けていくだけです。


[鴨川市]
千葉県鴨川市
平成17年2月に隣接する天津小湊町と合併しました。温暖な気候と美しい海岸線に恵まれ、四季を通じて観光客とサーファーでにぎわいます。
また、日蓮聖人様のゆかりの仏閣など数多く、歴史を誇る町です。
病室からは海が見えます。窓を開けると潮騒の音が聞こえてきます。
青々とした太平洋。毎日のように波の形が変わっています。今日も波が荒くサーフィンには絶好の波形です。


[白血球数減少]
担当医師は毎日往診に来ます。
まだ若い医師で元気にやってきます。サーフィンの大好きな先生です。
「採血の結果なんですが、白血球数が通常5000以上あるのですが1300と減っています。抗がん剤放射線治療をしますと大抵はこの数値になりますから特に心配することはないのですが、体の免疫力がなくなっていますので、外から帰ってきたとき、嗽、手洗いを徹底してやってください。生ものを食べることは禁止です」。
白い制服を着た人と警察官を見るとなぜか緊張します。
医師から言われたことは忠実に守ります。僕の本能かも知れません。
警察官を見て緊張するのは、日ごろ自動車を運転しますので警察官の目を盗んで所々でスピード違反したり、信号無視したり、追い越し禁止場所で追い越しをしたりするものですから、いつか検挙されるのではないかという恐怖感があるのかもしれません。
数日経過したところで白血球数は元の5000状態に戻り、外出、外泊の許可が出ました。
夏の季節でそれでなくても食中毒の発生する時期ですから、生ものはなるべく控えるようにと注意を受けました。


[七月という月は]
七月、毎年楽しいはずの夏なのですが、我が家にとっては災難の季節なのです。
もうすでに何年も前のことですが、7月20日は東京では子どもたちの夏休みが始まる日です。その楽しい夏休みを前にして家内が交通事故に遭ってその日から1ヶ月間入院しました。
7月6日は実父の命日。7月20日は義母の命日。7月18日は娘の嫁ぎ先の父親の命日。と余り良い月ではありません。
今年は今年で自分が肺がんで入院。今年の七月は十分に注意しようと家内は話をしていたところでした。なんとか、肺がんを撲滅して七月を良い月にしようと頑張っているところです。
[続く]
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