9月8日(月)
袖ケ浦公園上池カルガモ警察署」に「子ネコの捜索願い」が出されました。
捜索願いを出したのは「ネコバアさん」と呼ばれていて、公園にいるネコはもちろんのこと、公園を歩いている人たちから好かれているお婆さんです。
このお婆さん、毎朝、公園にいるネコたちに餌を与えているのですが、子ネコの1匹がいないとのことで心配になり「捜索願い」を出したようです。
捜索願いが出された子ネコは、この日記にたびたび登場しています。
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袖ケ浦公園上池カルガモ警察署」は開署後、毎日、毎日暇で、今にでも署員が死にそうな状態でしたのでこの捜索願いが出されたとき、警察署長とその署員たちは小躍りして喜びました。




















あっ、そうそう、まず初めにこの「袖ケ浦公園上池カルガモ警察署」のことを説明しておきますね。
実はこのカルガモ警察署、毎年、9月から翌年の4月まで公園の一角に臨時に設けられるのです。
毎年、9月から10月にかけて北の方から「カルガモ」が続々とこの池に飛来してきますので、その前の8月末に精鋭の署員たちが早く北から飛んできて、警察署を立ち上げるのです。
そして、翌年の4月にまた、北に帰って行きます。
この間、カルガモたちでこの池は賑わいます。
カルガモも人間と同じで、大勢のカルガモの中には悪いことをする「ヤツ」がいます。
例えば、折角貯めた餌を横取りする「ヤツ」がいたり、喧嘩をして傷害事件を起こす「ヤツ」もいるのです。
そんな悪いことをするカルガモを取り締まるため、毎年、警察署を設けるのです。
逮捕されたカルガモは、最長、1週間誰からも話をかけてもらえず、反省文を毎日警察署に提出し、そのあと、更生担当部長から2時間に亘りウンザリするほど長い訓話を聞かなければなりません。
カルガモ警察署の使命は、悪いことをしたカルガモを1日でも早く更生させ、春には全員が仲良く北に帰えるようにすることです。
そのほか付随業務として人間のお役に立つことです。
ですから、今回の人間からの「捜索願い」に協力したのです。
カルガモ警察署員は誰でもなれるというものではなく、採用試験にパスすることが必要です。
給料はでませんが、職務遂行の優秀なカルガモには特別ボーナスとして「トウモロコシ10粒」が与えられます。
月末に締めて査定を行い、翌月10日に支給されます。勤務時間は適当です。


「子ネコの捜索願い」が出たのは9月8日の午前8時ころです。
仕事ができた喜びに満ち溢れた警察署は明るい雰囲気に包まれました。
早速、署員たちによる捜索が始まりました。ある署員は空から捜索。カルガモの大得意とするものです。ある署員は岸辺の岩にじっと止まって、公園を歩く人間たちの声に耳を傾けました。
午前11時半、進展なし。
明るかった雰囲気がまた、暗くなりはじめました。
午後3時12分。
すっかり暗くなった警察署の雰囲気が再び明るいものになりました。
「子ネコ」を見た人間の男がいることを突き止めたのです。
午後4時。
カルガモ警察署長は、パソコン操作で四苦八苦していて今にも泣き出しそうな男を無理矢理カルガモ警察署に呼び、その時の状況を署長が聞くことにしました。


男の風貌は、頭髪はバサバサ。髭は伸び放題。顔は洗ったことがないように煤けていました。よれよれのTシャツを着て、半ズボンをはいていました。Tシャツにはコーヒーの「シミ」がついていて、おシャレ感覚は全くありませんでした。年齢は後期高齢者より少し若いようで後期高齢者予備軍の前期高齢者であろうと推測しました。
カルガモ警察署長はこの男を見た時「無職で年がら年中家でブラブラしていて、いかにもいわくありげな人物」だと思い、そして本当に信用してよいものかどうか悩みました。
さらにこの男から「捜索」に協力した謝礼として「カモ鍋・カモ南蛮」のいずれかを要求されるのではないかと、胃が痛くなるほど心配になりました。
すぐ、帰ってもらおうかとも考えたのですが、呼び寄せてすぐ帰ってくれ、と言ったら何をしでかすか分かったものではないという恐怖感を覚え、男が暴力をふるった場合、どこの警察署に電話したら良いかと小さな頭の中が混乱しました。
「胃の痛み」と「恐怖感」のどちらかをとるかで非常に悩み、結局「胃の痛み」を取ることにしました。
「カモ鍋」を要求されたら近くの「合鴨料理店」の場所を教え、「カモ南蛮」を要求されたらいつもモリソバの大盛りを食べている「蕎麦屋」から出前を取ることにしようと心に決めました。蕎麦屋で食事をすると「ポイント」がつくからです。


[男の話の詳細]
『ネコの親子は3匹で、いつも一緒です。
「ネコバアさん」、有名な方で今回捜索願いを出したお婆さんですからご存じですね。
「ネコバアさん」の言葉を借りますとこの親子のネコの愛称は、親ネコは「シロ」、ヤンチャな子ネコは「チビ」、そしていつも親ネコと一緒にいて人見知りをする子ネコは「クロ」と呼んでいます。
時々、親子三匹で「ネコバアさん」が与えた餌を食べているのを見たことがあります。
捜索願いが出ているのはこの「クロ」のことだと思います。





















今朝(注*9月8日の朝)、午前7時半頃、公園を歩いていましたら思わぬところで「親のシロと子ネコのクロ」に会いました。
なぜかいつも一緒にいる子ネコの「チビ」がいないのが気になりました。
「チビはどうしたの」と親ネコのシロに尋ねたのですが「ニャォ」と答えるだけでした。
「親のシロと子ネコのクロ」と会った場所は、いつも親子三匹で餌を食べる場所から1キロメートル以上も離れています。それにここに来るまで橋を渡ってきます。
今日は親子2匹で仲良く散歩かと思いました。


親子二匹にあった場所から1キロメートル以上も離れた餌場に近づいた時、びっくりしました。
親ネコのシロがそこにいたのです。そしてヤンチャな子ネコのチビと一緒に餌を食べていたのです。クロはいませんでした。
親のシロが子ネコのクロを置き去りにして餌場に戻ったとしか考えられませでした。
僕はさっき親子2匹にあった場所に戻りました。その途中、橋を渡る手前でクロらしき姿を発見しました。橋を渡れずにいたようです。
「おいで、おいで」と呼びかけましたが、人間の姿を見ると逃げてしまうクロですから呼びかけても近寄ってきませんでした。そして、草むらの中に姿を消してしまいました』。


カルガモ警察署長は思いました。
「もしかしたら、親ネコのシロは子ネコのクロが一匹でも生きて行けるように、そしてもっとたくましくなって欲しいと思って置き去りにしたんじゃないのかなぁ」と。
そして、この男が意外と紳士であることに安心したのか「胃の痛み」がなくなっていることに気がつきました。


カルガモ警察署長は「ネコバアさん」にネコの「親離れ」について説明をしました。
ネコバアさんは人間の世界とネコの世界の違いは理解できましたが、もしかしたら「親離れじゃないかも知れない」とも思いました。
そして、「カルガモ警察署」を出てから「クロ」を思いだしては「クロ、クロ」と大きな声で呼び続けました。
空には「カルガモ警察署員」が数羽飛んでいました。


翌日の9月9日午前8時。
餌場には「ネコバアさん」が置いて行った餌がありました。
子ネコの「チビ」は相変わらずヤンチャ坊主のように1匹で遊びまわっていました。
「クロ」はいませんでした。
親ネコのシロは、遠くを見て何かを探しているようでした。
「クロ」のことを思い出しているのでしょうか。
空にはカルガモ警察署員は飛んでいませんでした。