「カルガモ物語」(これで終わりです)

カルガモの母子

今日の天気 曇り。


今日も又風が強く、洗濯物が吹き飛ばされないかと心配でしたが、ナントか吹き飛ばされる前に乾きました。
カルガモ物語」第三回目をお送りします。
お忙しいところ、お付き合い頂きありがとうございました。


(これで終わり編)
もう一つの人間も観察しました。一緒になって歩いているうちの一つです。
二つ人間が楽しそうに話し合いながら歩いていましたので、カルガモでいう「ツガイ」かも知れません。
で、こちらも一目見たとき
「部分入れ歯が飛び出しそうになるくらい」笑っちゃいました。
(カルガモが笑うのは一生に一度あるかないかで大変珍しいことです。すでに一度笑っていますので今度で二度目です。ジャンボ宝くじ1等2億円が二度も当たったと同じように珍しいことですのでギネスブックに申請しました)


何故って。顔かたちはもう一つの人間の顔と同じですが、
そのつんつるの円い顔に何か白いものを塗りたくっていたからです。
それに目の上に毛がなく、その毛が生えていたであろうと思われるところをこれも何か黒いもので塗ってありました。
更に、さらにびっくりしたのは口の薄い皮部分にこれも何か赤いもので塗りたくっているのです。
何であちこち塗りたくっているんでしょうね。カルガモの世界では考えられないことです。
(これもあとで知ったのですが、あの真っ赤に塗りたくった大きな口で、僕たちと同じ種族のアイガモ、マガモなどを「鴨南蛮」とか「鴨鍋」にして「美味しい、美味しい」と言って食べてしまうようです。ゾッとしました。人間は本当に残酷です。)
塗りたくっている人間は自分の顔を見るのはほんの少しの時間ですが、傍にいる人間は常時その人間を見ることになりますから、絶対、忍耐が必要ではないかと思います。
口の大きさや目の大きさ、それに真ん中の突起物の高さは人間それぞれが違うようで、人間はこの違いで綺麗だとか、綺麗でないとか判断すれば良いとおもいますけど、人間によってはこの塗りたくりの加減によって間違った判断を下す場合もあるということです。
怖いですね。カルガモの世界は雄が綺麗ですが、人間の世界は全く逆です。
僕たちカルガモの顔立ち、体型はみな同じですが、やはり好きなタイプの見分け方があります。それは内緒です。


人間の頭の中にはカルガモと比較が出来ないほど大きな脳が入っているとこれも仲間から聞きました。この脳でいろいろなことを考えているようです。考えすぎて病気になる人間もいるようです。「人生とは」と考えるのもこの脳が大きいからだそうです。
それに比べて僕たちの頭の中に入っている脳は小さくて、生きるか死ぬかということだけで、余計なことは考えることは出来ません。
食事の心配はありますが、鳥に生まれて良かったと思います。
それに鳥は大空を飛ぶことが出来ます。人間は鉄の塊に乗って空を飛んでいますが、自分の好きなところにはいけませんので、ちょっと可哀想な気がします。


なんだ、これが我々のご先祖様を驚かせて鳴き声を変えさせた人間か、と思いました。
大したものじゃないようです。
でも、油断は出来ないと思いました。
時々、人間が我々に向かって石を投げてくるのです。人間にとって遊びかも知れませんが、我々にとっては命に関わることです。人間は我々にとって天敵です。


カルガモの中にガールフレンドが出来ました。そのガールフレンドが近づいてくると妙に胸がドキドキするのです。いつもそのガールフレンドを探すようになりました。
そのガールフレンドに何かしてあげたいと思うようになりました。そのガールフレンドに他のカルガモが近づいてくると追い払いたい気持ちになります。僕は毎日、水で体を綺麗にすることにしました。そしてそのガールフレンドにもっと興味をもたれるように羽毛をぴかぴかに磨いています。僕の気持ちの中では友人以上のものがあります。
好きなタイプのカルガモはどこで見分けるかって。それは何度も言うようですがそれは内緒です。


先日、暖かい風が吹きまくりました。毎年、この暖かい風が吹くとこの池を飛び立つ日が
近いということを仲間から聞きました。
仲間と第一回目の打ち合わせをしました。打ち合わせの議題は、「いつこの池を出発して故郷に戻るか」です。
打ち合わせの結果、
ここに暖かい風が吹いても、故郷にはまだ雪が残っているし、湖はまだ凍結しているはずだということで、しばらく様子を見ることになりました。
そして桜が咲く頃、第二回目の打ち合わせをすることにしました。それまでに体力を十分につけておこうということも申し合わせました。


出来ればガールフレンドも一緒に僕の故郷に連れて帰りたいと思っています。
もし一緒に行くことが出来なければ、この「上池」で愛の巣を作ろうと思っています。
カルガモの世界では、巣作りから子育てまで全て女性がやることになっています。
そして、この文章を読んでいる皆様は「羨ましい」とおもうか「あとくされがなくすっきりしている」とおもうかは勝手ですが、子供たちの卵を抱く時、夫婦の関係は解消されます。
そして、又、お互い相手を探すのです。
僕はガールフレンドを一生大事にしていきたいと思っていますが、僕の頭の小さな「脳」が本能にしたがってガールフレンドを忘れさせてしまうかも知れません。
でも、子供たちが生まれ、子供たちが母親となったガールフレンドの後に行列を作って、必死になって泳いでいる姿を遠くから見たいと思っています。
僕はまだ人間を好きになれませんが、子供たちが母親の後ろを泳いでいる姿を見たとき、あのおぞましい人間の口から「かわっいい」と言われたら、どうしようかと思っています。その時は、ほんの少し人間が好きになってしまうかも知れません。


だんだん暖かくなってきました。暖かい日には沢山の人間の子供たちが大きい人間と一緒に遊びにきます。赤色や黄色の袋をかついで皆うれしそうです。
人間の世界でも子供は可愛いなぁと思いました。
もうすぐ、桜という花が咲きそうだと仲間が言っていました。


今晩、僕の気持ちを思い切ってガールフレンドに打ち明けようと思っています。
(了)