猛暑が続いていた8月末、わが町の公園で鳴いているセミのサミットが開かれました。


サミットの議題は「今年の夏をどのようにして過ごすか」というセミにとっては大変重要な議題でした。
集まったのは「アブラゼミ」・「ニイニイゼミ」・「ヒグラシ」・「ツクツクボウシ」・「ミンミンゼミ」・「クマゼミ」の7団体の最高責任者です。セミサミットが開かれるのは世界で初めてです。
ニイニイゼミは朝から夕方迄鳴き通しで大変忙しく、アブラゼミは午前、クマゼミツクツクボウシは午後、ヒグラシは朝と夕方が忙しく、サミット開催時間の調整に難儀しましたが、結局は日の出直前に開催することに決まりました。
そして、サミットが始まる直前に初のセミサミット開催を祝してセミが一斉に鳴くことも決めました。


ある日の午前4時。公園のセミが一斉に鳴き始めました。
公園の近くに住んでいた男の人は、何ごとが起きたかとびっくりして外に飛び出しました。
いつもはまだ起きる時刻でなかったので楽しい夢をみていました。その夢は宝くじがあたった夢でした。それで何等賞があたったのかを調べようとした矢先、セミが鳴き始めその鳴き声で目が覚めてしまいました。夢うつつの寝ぼけざまで外に飛び出したものですから、ドアに頭を目玉が飛び出すほどぶつけてしまいました。泣きたくなるくらいの痛さを我慢してセミに向かって「うるさ〜い」と怒鳴ったのですが、セミの鳴き声にかき消されてしまいました。


サミットの議長にはニイニイゼミが選ばれました。
ニイニイゼミは、毎年6月の終わり頃、他のセミより早く鳴き始め、8月の中ごろまで朝から夕方まで寸暇を惜しんで鳴いています。それが他のセミの模範となるということから議長に選ばれた理由です。
ニイニイゼミ議長は、「ジージー」と二声鳴いて、ついでに「コホン」と咳をしました。
ニイニイゼミ議長は会場を見渡し、大きな声で言いました。
「本日はお忙しいところ、お集まりいただきありがとうございました。
本日は皆様のご意見をお伺いしたいと思いまして急遽お集まりいただきました。
例年ですとわれわれセミ族は8月中旬頃には鳴き止み、スズムシ、コオロギさんなどの虫の音と入れ替わるのですが、今年はセミの声と虫の声がごっちゃ混ぜになっています。今年は梅雨明け後、厳しい暑さに見舞われ8月も一向にその暑さは衰えず、われわれもどこで鳴き止んで良いのか見当がつきません。鳴き続けているうちにとうとう8月も終わりとなってしまいました。
われわれセミ族は幼虫として地下で生活する期間は3年から17年であり、さらに地上にでて成虫として活躍する期間は1ヶ月ほどで、昆虫類でも寿命の長さは上位に入るものであります。
人間の世界では、われわれセミ族の成虫期間は1週間から2週間程度と言っていますけど
セミの成虫の飼育は難しく、すぐ死んでしまうことから成虫期間はせいぜい1週間と言ったんだろうと思います」。


ニイニイゼミ議長の声はかすれていました。6月の終わりから8月末迄鳴きどおしですから声がかすれるのは当たり前です。
ニイニイゼミ議長の話はさらに続きます。


セミの成虫期間は1ヶ月ほどです(自然界で人間とセミと一緒に生活をしたことがないのではっきりわからないのですがセミが言うのを信用して)ので、本来、私は既に死んでいなくてはならない時期ですが、気がつきましたら3ヶ月も生きているのです。
その他のセミは、二代目から三代目に変わり今も鳴き続けています。
例年は二代目でほぼ鳴き止むところですが、今年は全くもって異常であります。
9月に入っても暑さが続けば、4代目も羽化させる必要が出て来ます。そうしますと来年に羽化させる幼虫がいなくなり、セミの鳴き声が全く聞こえなくなってしまいます。
夏の暑い季節にセミの鳴き声が聞こえないということは、朝のコーヒーにコーヒーの味と香りを引き立てるブライト(ミルク)を入れないのと同じであり、全くもって間の抜けた夏になってしまいます。
そこで、本日お集まりの皆様にこのまま鳴き続けて行くかどうか。忌憚のないご意見をお伺いしたいのです」。
ニイニイゼミ議長の話が終わる頃、東の空が明るくなってきました。
それぞれの最高責任者から「ジージー」とか「ミ〜ン、ミ〜ン」とか「カナカナ」とか「ツクツクホーシ」など沢山の意見が出ましたが、セミサミットの結論は出ませんでした。


9月になりました。暑さは相変わらず続いていました。全国的に記録的な猛暑です。
セミの鳴き声も相変わらず聞こえていましたが、8月のような勢いはありませんでした。
9月中旬、天候は急に秋になりました。



(羽化)


















(成虫)