袖ケ浦公園のガチョウ。
相変わらず上池の主として君臨しています。冬の季節、カルガモオナガガモコガモなどの渡り鳥が飛来して来ます。なにしろ、ガチョウはこの池ができた頃から住んでいますので、渡り鳥は池の主として崇拝しています。
今は渡り鳥も北に旅立って池は静かになっています。ドラム缶を引きずったようなかん高い声を上げてわめくガチョウの声は滅多に聞くことができません。


昨年、2羽の仲間が亡くなり今現在、池にいるのは10羽です。
13年ほど前、この池に生息しているガチョウたちで「ガチョウ友の会」という会を作りました。


(「ガチョウ友の会」のメンバー)


















発足当初、メンバーは15羽でした。それが今では10羽となってしまいました。
そのガチョウですが、今までとは少し様子が変わってきました。
その会の会則によれば「いつも仲良くみんなで行動すること。これに違反した場合は1週間仲間はずれにする」という厳しい規定があり、それで全員仲良くしてきました。
それが春の気配が濃くなった頃から単独行動をするガチョウが現れ、会の結束は乱れてきたのです。もちろん、会則に違反していますので罰則規定を適用し、1週間仲間ハズレの罰を与えたのですが、1週間経過後も仲間と一緒に行動することがなくなり、友の会を退会するものまででてきたのです。
そこで普段はもちろんのことゴールデンウイークも暇であった僕は、ガチョウ友の会の会長に会の現状などのお話を聞くことにしました。


(インタビューに応じてくれた「ガチョウ友の会」会長さん)


















僕「コンニチハ。いつも公園を利用させていただきありがとうございます。常日頃、ガチョウさんたちの会話を楽しみに公園を歩いています。公園を歩くついでにガチョウさんたちの餌にと思って食パンのミミをいつも玄関先に用意しておくのですが、近頃、歳をとったせいか物忘れがひどく、折角準備しておいた食パンのミミを持ってくるのを忘れてしまいます。公園を歩いて帰ってきますと玄関先に食パンのミミがおいてあります。ガチョウさんたちに食べてもらおうと用意したこともすっかり忘れて、なんで玄関先に食パンのミミがあるのかと不思議に思いながらも捨ててしまうのは勿体ないということで、夫婦仲良くその日の昼食か夕飯で食べてしまいます。
そんなことで今まで一度も食パンのミミを持ってきたことがありません。
今度、絶対忘れないで持ってきますね。ですが余り期待しないで待っていてください。
ところで今日は何をするんでしたっけ。そう、そう思い出しました。会長さんに「ガチョウ友の会」の近況をお伺いするんでした」


会長「ワタシがここにいることを忘れているんじゃないかと心配になりました。お話がとても長いので退屈をしていたところです」


僕「恐縮です。それでは早速お話をお伺いいたしましょう。
それでは。
あっ、そうそう。本題に入る前にちょっと教えて欲しいのですが、今度上池にアヒルさんが一羽増えましたね。
遠くからみますとガチョウさんとアヒルさんはそっくりです。でも近づいてよく見ますと顔形は違っていますし、体はガチョウさんのほうが大きいですね。ちびっ子たちに人気があるのはアヒルさんのほうで、ガチョウさんは時々人間を威嚇しますので嫌われています。どちらも羽が白いですからちびっ子たちはガチョウさんをみて「あっ。アヒルさんだ」といいます。時たま「あっ、アフラックだ」という子もいます。アヒルさんにとってガチョウさんと一緒にされるのは迷惑なことですが、ガチョウさんにとってはうれしいことでしょうね。
スイマセン。また、横道にそれてしまいました。
そうそう、お聞きしたかったのはアヒルさんはこれで2羽になりましたが、めでたくご結婚されたのでしょうか。
ところで会長さん。こんなことを会長さんにお伺いするのは恐れ多いことですが、アヒルさんのオス・メスはどこで分かるかご存じですか。
実は先日、ゴールデンウイークの真っ只中「マザー牧場」に行って来ました。
当日はよく晴れていて朝から気持ちがうきうきしていました。「どっかに行くベー」ということで検討した結果「マザー牧場」を思いつきました。
会長さんは行ったことはないと思いますが、ここは「小さな子供連れの家族」か「他人がなんと言おうと自分たちはベストカップルだと思っている男女同士」で行く場所なのです。
老夫婦が連れだって行ってもちっとも面白くありません。ですが、この牧場で「アヒルの大行進」というのをやっていましてね、ついつい最後まで見てしまいました。アヒルは可愛かったですね。ガチョウさんはいませんでした。なぜかここでもガチョウさんは人気がないのです。
ここでアヒルの飼育員の方からアヒルの雌雄の見分け方を教えてもらったのです。
聞きたいですか。
まず一つ目は、オスは尾羽がカールしている(巻き毛の状態)ことです。


















それから二つ目は、オスは滅多に鳴かないことです。
「グエッ。グエッ」と四六時中鳴いているのはメスで、メスは人間の世界と同じで騒がしいようです。
長く生きてきて初めて知りました。マザー牧場に行ってきてよかったなぁと思いました。
そんなことで2羽のアヒルをもう一度見てください。
ご夫婦だったとしたらそれはそれでいいんです。ただ、知りたかっただけですから。
そう、そうまだガチョウさんに聞きたいことがあるんです。
例年、今の時期は産卵時期なのですが今年は産卵したのでしょうか。抱卵しているガチョウさんをまだ見たことがありません。それからお誕生のお祝は産卵のときにお持ちした方がよいのでしょうか。それとも孵化したときでしょうか。ちなみに人間の場合は出産といいましてお母さんの体から子供が生まれたときにお祝いをします」


会長「お話があまりにも長いので、もう、おうちに帰ろうかと思ったところでした。
ガチョウ友の会のメンバーは高齢者ばかりで、産卵できるガチョウはいなくなってしまいました。昨年の5月から今年の5月にかけての一年間に高齢化が一気に進んだためです。
今まで産卵するたびに孵化することを願っていたのですが、残念なことに孵化する直前にカラスに卵を持っていかれ雛が孵ることはありませんでした。カラスはずる賢いですから、仲間のガチョウが追い払ってもいつの間にか卵は取られてしまいます。カラスにとってガチョウの卵はこの世で一番のご馳走で、一年に一度食べられるかどうかなんです。かわいい雛を見たいのですが今まで一度も見たことがありません。誕生のお祝いは孵化したときにお願いしたいと思っているのですがもう期待できません。そんなことで今のガチョウたちは全部老鳥ばかりです」


僕「会長さんも意外とお話が長いですね。お話をお伺いますと実に悲しいガチョウさんたちの世界ですね。孵化がだめだったら公園を管理する人間のオジサンに頼んでどこからか若い雌と雄のガチョウさんを連れてきてもらったらどうですか」


会長「それが同じガチョウだから良いというわけにはいかないのです。今の「ガチョウ友の会」のメンバーは長年連れ添ってきた仲間なので、他から来たガチョウは仲間として受け入れることができないのです。本音を申し上げますと若いガチョウをぜひ入会させたいのですが、今の実情からいって非常に困難な状況です。
ついでにもう一つお話をしたいのですが、良いですか」


僕「手短にお願いいたします。すでに予定より随分長くなり、聞く方も厭になってきたし、ましてこれを読んでいる人はもうウンザリしていると思いますよ」


会長「手短にお話をしますので、欠伸をかみしめて聞いてください。
この「ガチョウ友の会」には会則があることはご存じのことと思いますが、その他にガチョウの世界で初めての「年金制度」を採り入れています。
実際はお金を取り扱っていませんので「年金」というネームはおかしいのですが、人間の世界の「年金制度」を真似していますのでこの名前で良いかということになりました。
制度の概要を簡単に説明しますと、この会に入会しますとその入会した月から自分たちが食べる餌の一部を会に預けます。餌の保存場所は内緒です。ガチョウ年齢によって預ける餌の量は違っています。会でも餌の一部を負担しており将来の生活に困らないよう計算されているのです。
受給開始時期はガチョウ年齢の満15歳からで、死ぬまで餌をもらえます。
ガチョウの世界ではこの制度は画期的なものです。この池に飛来してくるカルガモさんやオナガガモさん、コガモさんなどは驚いています。これらの渡り鳥は世界中を飛び回っていますのでたくさんの情報を知ることができます。「鳥の年金制度」なんてものは聞いたことがないと言っていました。
また、水中の世界の情報はカメさんから聞くことができます。
この池にあるカメさんたちの溜まり場である竜宮城は支部となっていますが、本部は海の中にあります。本部には乙姫様がいらっしゃって、支部と本部との連絡はインターネットを利用しています。世界中の最新情報が支部でも即時に知ることができるのです。
先日、竜宮城支部の亀池支部長さんにお願いして「鳥の年金制度」または「ガチョウの年金制度」とインターネットで検索してもらいましたら「該当なし」と出ました。
ですから「ガチョウの年金制度」を採り入れたのはでこの会が世界初だろうと思っています。
運営は順調に行くかと思いました。しかし、ここにきて年金制度に大きく狂いが生じてきたのです。
当初は考えられないことでした。先にもお話をしましたが、「産卵すれども孵化せず」の状態ですので若いガチョウがいないのです。
若いガチョウにも餌の一部を負担してもらうことでこの年金制度の運営はうまくいくのです。
いや〜。困りました。実に困りました。
それに年金の支給がそろそろ始ります。
メンバーの年齢はほぼ同じなので一斉に支給が始まります。支給開始後5年位までは支給できますが、その後は餌がなくなります。
で、今、この池を管理する人間のオジサンに餌の増量をお願いしているところです。そのオジサンが言うのには餌代には予算というものがあり、そのオジサンより偉い人から餌代は予算範囲以内におさめるようにきつく言われ、さらに予算がオーバーしてもビタ一文出さないぞと脅かされているようで餌の増量は難しいとのことでした。それでも「そこをなんとか」とお願いしました。それからオジサンから一言、「鳥のくせに贅沢だ」とも言われました。人間界の「年金制度」はうまくいっているのでしょうか。どうもオジサンはガチョウに八つ当たりをしているように思えるのですが」


僕「長々とありがとうございました。これ以上、お話を聞くことに我慢ができませんので最後の質問です。最近、ガチョウ友の会を退会するガチョウさんがいると聞きましたが」


(「ガチョウ友の会」を退会した一羽のガチョウ・顔にモザイクをかけるよう頼まれたのですが)


















会長「長年培ってきた結束。これが乱れてきたのは本当です。その原因はやはり年金制度なのです。
将来、年金制度は破綻すると感じたのでしょうか。今のうちに年金をもらってしまえというわけです。途中退会の場合、満額支給というわけではないのですが減額で支給します。
減額受給でも破綻してもらえなくなるよりましだと考えるガチョウが出てきたのです。
一羽でも退会しますと年金制度の破綻を早めることになります。今、必死になって食い止めているところです」


今日も暖かな日です。ガチョウは日光浴をしながら目を閉じています。
「上池」にいるガチョウは10羽。いつも一緒でした。しかし、近頃はバラバラに行動しています。
そんなガチョウを見ながらガチョウたちの世界を想像してみました。風はなく水面は静かです。鳥たちは昼寝の真っ最中です。