ある暖かな日。池でカメが二匹甲羅干しをしていました。
その近くで川鵜が一羽・二羽と、倒木の上で日光浴をしていました。
風が吹いています。水面が揺れています。



カメの会話です。

「ねえ、ねえ。右側の奥様」
と左側のカメが右側で甲羅干しをしているカメに話かけました。


「私の後ろで、羽をばたつかせている川鵜さんをご存じかしら」。


「いいえ、知りませんわ」。


「そう、今じゃこの川鵜さんの噂で池中持ちきりなんですのよ」


「うわーっ。私、噂話大好き。聞かせて、聞かせて」
というわけで、左側のカメがその噂話を始めました。


「噂の本人が後ろにいますので、あまり大きな声で言えませんので
もっと近くによっていただけません。このお話はカメ以外の動物には
絶対お話をしませんようお願い致します」


「私、これでも口が堅いのが取り柄なんです。口止めされている噂話は、
いままで他にもらしたことはありませんわ。ですから、これからのお話も
カメ以外には絶対お話はしません。どうかご安心なさってください」


「それじゃお話しますが、私の後ろで羽をバタバタさせて大きな態度を
とっていますが、実はこの川鵜さん、先日、折角見つけた「鯉」を丸のみに
することが出来なかったうえに、その鯉に逃げられたんですって。


人間の世界では「鵜呑み」という言葉があるそうです。
鵜呑みの意味は、ものごとを良く理解せずにそのまま受け入れること
なのだそうで、人間界にはこういう人間が多いのでこの言葉が使われるように
なったようです。

昔、むかし。
ものごとを良く理解せずにそのまま受け入れる人たちの状態を何と
表現しようと考えていた時、鵜が魚を丸のみにするのをみて、「鵜呑み」と
いう言葉を考えついたと言われています。(注:個人的な考えです)


そんなことから、人間が「鵜呑み」と言葉を今後も使うためには、
鵜は魚を丸のみにする鳥だということを思わせ続けなければいけないと
思っています。余計なことですが。


ところが、川鵜さんが必死になって鯉を飲み込もうとしているところを
写真に撮っていた人間がいたのです。
そしてその光景が大変珍しいということで、その時の写真を人間界の
日記公開や他からの意見の交流に使うブログというものに掲載しました。
そのブログの表題が「鵜呑みに出来ない鵜」というもので
そのブログの中に「鯉に逃げられた」とも書かれていて鵜にとっては
大変恥辱的で衝撃的な内容でした。(ご参考 id:h-kawa0619:20160227「鵜呑みにできない鵜」)



ある時、閑なカメの仲間がスマホでインターネットを見ていたところ、
たまたまこのブログを見つけ、ブログに載っている川鵜はみたことがあり、
背景は自分たちが住んでいる池であることに間違いない、ということで
あっと言う間に情報はカメの世界に広がりました。


カメの歩きは大変遅く、ウサギに負けっ放しですが、この情報は
携帯電波の4G・ LTE並みの速さで他のカメの耳に受信されました。
当初の噂では丸のみにできなかったのは「メダカ」だとか、「フナ」
だとかの噂でしたが、そんな小さいものは丸のみにできるはずだから
違うんじゃないのと言われて、それじゃと言って「鯉」になり、
さらに尾ひれがついて「クジラ」になっていったとのことです。
クジラはいくらなんでも池にクジラがいるわけがないので、
すぐに否定されたようです。
鯉もみんな疑いを持ったのですが、各自がスマホやパソコンでブログを
見たところ、鯉であることを確認したようです。


そして、最終的にはこの川鵜は「身の程をわきまえない鵜」という評判が
カメの世界と鵜の世界に広まりました。


今はこうして二羽の鵜の仲間からも見放されて、何とか他にお友達をつくろうと、
お友達になりたい鳥はこの倒木に止まれと言わんばかりに羽をばたつかせ、
注目を浴びようとしているようです」


「私、口が堅いのが取り柄と申しましたが、実はそうでもなく、お話を聞いている最中に、
どうしても他の動物にも話をしたくなりました。でもこの川鵜さんがかわいそうになり、
やはり黙っていようと思います」。


めでたし、メデタシ。(個人的な感想)


何がめでたいのか分かりませんが、これでお話は終りです。