現代の昔話

今日の天気 晴れ


(初めに)
昔、むかし、あるところにオジイサンとオバアサンが住んでいました。


(続いてオバアサンのお話)
オバアサンは、川に洗濯に行きました。
と、言うのは昔、むかしのお話で、今は「洗濯機」という文明の利器が発達してそれも水洗いから乾燥まで自動的にやってしまう便利なもので、洗濯物と洗剤を投入するだけで終わりです。オバアサンは洗濯が大好きで、一日に何回も洗濯をしました。
それでもオバアサンは時間をもてあまして時々昼寝をしていました。
洗濯物が多いときは、オジイサンとオバアサンとで、洗濯物をたたむこともありました。
オジイサンは几帳面な人で、下着をたたむ時でもキチンと折り目をつけてたたみました。
そして、たたんだ時の大きさもすべて同じ大きさになっていないと気がすみませんでした。
オバアサンはその点あまり気にしない性格で、折り目、大きさにかまわず、サッサとたたんでしまいます。
ある日、オバアサンはスーパーに買いものに出かけました。
美味しそうな桃がありました。オバアサンは糖尿病の予備軍で甘い物を食べることをなるべく控えるように医者から言われています。
そんなことでオバアサンはオジイサンに買って行くことにしました。
オバアサンは家に帰ってからその桃を割りました。割ってびっくり、中身が腐っていました。オバアサンは残念そうにその桃を捨ててしまいました。
(これでオバアサンのお話は終わりです。中身が腐っていたからです。中身が腐っていなければ、桃から元気な男の子が生まれてお話は次から次へと展開していく筈だったのです。誠に残念です)。


(続いてオジイサンのお話)
オジイサンは山に柴刈りに行きました。
と、言うのも昔、むかしのお話で、今は「電気、ガス、石油」などがあり、お湯を沸かすのも簡単にできます。
オジイサンは会社勤めをしていましたが、定年退職後、山に柴刈りに行くこともないので時間をもてあまし、パソコンをやることにしました。
朝から晩まで何をしているのかわかりませんが、時々、雨だれのような音が響いて来ます。
「ポツン、ポツン」という音は、パソコンを一本指で打ち込んでいる音です。
ある日、オジイサンはオバアサンに言いました。
「ソフトを買っていいかい」。オバアサンは喜び「いいですよ」と答えました。久しぶりに外出が出来るからです。
オバアサンは悩みました。「ソフトは抹茶味にしようかしら。それともバニラ味、チョコレート味もいいわね」。と自分が糖尿病の予備軍であることを忘れ、自分なりに考え悩みました。
オジイサンが言ったソフトはもちろん「ソフトウエア」のことで、パソコンを動かすものです。オバアサンの思ったソフトは「ソフトクリーム」のことで、食べ物です。
時々、このような話の食い違いが生じましたが、お互いにいたわりあい、理解しあいながら過ごしました。
(これでオジイサンのお話も終わりです。桃から元気な男の子が生まれてくればオバアサンと一緒にその子を大切に育てたのですが、中身が腐っていたので捨ててしまったのでこれ以上お話が続きません。これで終わりです。ちっとも面白くなく、普通のお話で終わることは誠に残念です)。


(最後に)
このお話は、昔話の「桃太郎」に似ています。
昔話の桃太郎は、大きくなって鬼ヶ島に鬼退治に出かけます。途中、イヌ、キジ、サルを家来にして鬼を退治し、鬼から沢山の宝物をもらい、みんなでしあわせに暮らしました。
「めでたし、めでたし」でおしまいとなります。
昔話の「桃太郎」を参考にして、今風の桃太郎のお話を作りたかったのですが、何しろオバアサンの買って来た桃が腐っていたので捨ててしまっては話が続きません。
このオバアサンとオジイサンも宝物を頂戴して余生を楽しく過ごし、「めでたし、めでたし」で締めくくりたかったのですが。
でも、その後のオバアサンとオジイサンはどうなったか、気にかかります。
「オバアサンの洗濯、オジイサンのパソコンは相変わらず続いていました。宝物をもらえませんでしたので裕福な生活を送ることはできませんでしたが、年金だけの収入で普通の生活を送り、二人でしあわせに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし、これでおしまい」
(贅沢をしなければ、幸せは何処にでもあるという一般的なお話に切り替えました。実在するオバアサンとオジイサンとは全く関係ありません)