先生、お元気ですか

今日の天気 曇り時々雨


毎日、パッとしない天気が続いています。雨が降るのか降らないのか「どっちかにはっきりせい」と思います。


今、本屋さんの店頭に表紙を新たにした明治、大正、昭和時代の文学作品がずらりと並べられています。
島崎藤村森鴎外夏目漱石芥川龍之介志賀直哉など、など。
今、若者に人気のあるのは小林多喜二の「蟹工船」だとか。
そういえば、高校生のころ、国語の試験で右側に作品名・左側に作者名が記載されてそれぞれ線で結べなんて問題が出たっけ。そして、なぜか該当しない作品名が一つ掲載されていて、生徒たちの混乱を面白がっている「センコウ」がいたっけ。いやいや「先生」がいらっしゃいました。
なんてことを思い出しながら本を見て歩きました。


田山花袋の「田舎教師」そして「蒲団」の本を見た時、国語を教えていた先生のことを思い出しました。
先生、お元気ですか。
国語の試験で意地悪したセンコウ、いやいや先生です。先生の国語の教科内容は、教科書通りではなくいつも脱線していました。
特に興味があったのは、小説の内容を自分が主人公になったつもりでお話をすることでした。先生はたくさんの小説を読んでいました。時には嬉しそうな声で、時には悲しそうな声でお話を聞かせてくれました。
ですから、本を読まなくてもその小説の内容を知ることができました。
特に印象に残っているのは田山花袋の「蒲団」の最後の部分。
「芳子が常に用いていた蒲団。(省略)時雄はそれを引き出した。女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした。夜着の襟のびろうどの際立って汚れているのに顔を押し附けて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅いだ」。
この箇所は、先生は前に座っている生徒にツバキを吹っかけ、興奮したお顔でお話をされました。
そして言いました。「諸君、ぜひこの本を読んでみたまえ。青春の真っただ中にいる諸君にとって強烈な印象として残るだろう」。


読まなくても印象に残りましたよ、先生。
でも、すっかり忘れていました。
先生のお話を聞いた時、早速この本を読んで見ようと思ったのは確かなんですけど、そのうち忘れてしまいました。
先生のお話を伺ってから半世紀になります。
青春はとっくに過ぎましたけど、この本を買って読みました。
やはり、最後の部分は印象に残ります。


僕は今、当時の先生と同じ歳頃になりました。
先生、お元気ですか。
50年ぶりに先生を思いだし先生が推薦された田山花袋の「蒲団」を読みました。
先生、ありがとうございました。
なんか、肩の荷がおりたような気がします。